教育評価と全国学力・学習状況調査

一般財団法人 応用教育研究所所長 石田恒好

教育課程の評価

「教育評価」は、成績をつけること(正しくは評定)と誤解している者が多いが、本来は、「教育がその目標を実現するよう機能しているかを値ぶみすること」である。
値ぶみが低く、十分機能していない場合は、教育を点検して原因を明らかにし、反省し、改善して教育をし直し、すべての目標を実現して次へ進むべきである。すなわち「教育評価」とは、値ぶみで終わらず、点検、反省し、改善することである。
全国学力・学習状況調査(以下「全国学力調査」)は、学力の実体を調査し、調査結果を資料(証拠)として、現行の教育(教育課程)を評価(値ぶみ、点検、反省)し、改善するために行う。本来の目的は、教育課程の評価、改善ということである。
最近の教育界の動向の一つは、「確かな証拠に基づいて教育的決定を行う」である。調査結果についても当然、教育課程の評価、改善にとって、「確かな証拠」かが問われる。「確かな証拠」といえば、標準化の手続きによって、検査結果を「確かな証拠」に仕上げているのが標準学力検査である。調査している学力身につけるべき学力は、学習指導要領に示されている内容(山という字)、目標(書ける)が実現している状態なので、学力の母集団は、学習指導要領の内容、目標である。それを見事に代表する標本を抽出して調査(検査)項目とすれば、学力を正確に調査(測定)できる。標準学力検査は、この手続きを厳密に踏んでいるので、正確に学力を測定している。そして測定結果について、水準、構造、目標実現の程度、個別問題への反応を解釈する基準(尺度)が作成されている。最近の全国学力調査は、調査項目をみると、この手続きは踏んでおらず、目標(能力、観点)の枠組に基づき、中でも「思考・判断・表現」に力点を置いているように思える。そして調査結果は、教科全体と観点別の得点と平均、問題別の通過率、平均通過率等で表示され、目標の実現状況を解釈できる尺度はない。
全国学力調査では、実施教科における観点別学力、中でも「思考・判断・表現」学力の指導、学習の評価、改善は行えるが、実施教科の教育課程の評価、改善を行うことは難しい。その点、標準学力検査の検査結果は、実施教科の教育課程の評価、改善も、観点別学力の指導、学習の評価、改善も正確に行える「確かな証拠」である。同時実施して、全国学力調査の結果の偏りと不足を補完し、本来の目的である教育課程の評価、改善に万全を期してほしいものである。

同時実施の効用のいろいろ

① 実施教科
教育課程の評価、改善は、教育の領域のすべてで本来行うべきである。したがって、全国学力調査も全教科実施が望ましい。しかし実際には困難なので、小学校国・社・算・理、中学校国・社・数・理・英について行われていた。最近は、理科を加える動きはあるが、小中とも国、算・数に終始している。実施外教科は、教育課程の評価、改善をしないで続けられるだけでなく、軽視されるようになるといわれる。力点外の観点にも同様の恐れがある。
標準学力検査は小学校国・社・算・理、中学校国・社・数・理・英について作成され、観点別学力も正確に測定している。同時実施の教科を多くし、教育課程の評価、改善を拡充し、教科、観点の軽視も払拭したい。

② 経年比較
全国学力調査では問題を公表するので、毎回新作し、経年比較は大変困難であった。最近は非公表の問題を再度実施することによって可能とはなったが、精度にはいくらか問題がある。標準学力検査は非公表で同一問題で実施している上に、水準等を示す尺度も作成されている。正確な経年比較が可能である。同時実施を行うべきであるという理由である。

③ 指導・学習への活用
観点別や問題別の資料(証拠)は、指導・学習のポイントや手だてを具体的に示していて、活用しやすいものである。しかし全国学力調査は、実施してから返却までの期間が長すぎるので、活用しにくい。その点、標準学力検査はすぐ返却され、ていねいな資料でもあるので、
大変活用しやすい利点がある。

④ テスト・バッテリーでの活用
標準学力検査の全国学力調査との基本的違いは、標準化の手続きにより、検査間で検査結果を合理的に比較できる尺度が作成されていることである。全国学力調査ではできないが、テスト・バッテリーによって、学業不振の解消、楽しい学級づくりによる学力向上など、教育課題を解決できる。教育課程の評価、改善の拡充には、標準学力検査の同時実施が必要かつ有効である。同時実施で教育の向上・発展を切に願うものである。