標準学力検査の結果が映し出すもの
東北大学教授  宮本友弘

今般の教育改革全般を方向づけている学力モデルは、「学力の三要素」と呼ばれる。文字通り、「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」(以下、思考力等)、「主体的に学習に取り組む態度」(以下、主体性)の三つの要素から成る。このうち、「思考力等」と「主体性」をいかに評価するかが、現在の論点となっている。両者の評価に対して、標準学力検査はどのように寄与できるであろうか。
議論の前提として、標準学力検査の特徴を確認しておきたい。標準学力検査のもっとも重要な要件は、誰が採点しても同じ結果になること、すなわち、客観テストであることである。採点の信頼性が保証されていなければ、標準化への手続きに移行しようがないのである。したがって、主な解答形式は選択式であるか、記述式であっても、一義的な解釈が可能な短答式あるいは文字数がある程度限定されたものにならざるを得ない。
こうした制約のため、客観テストは、「思考力等」の測定には不向きと考えられ易い。実は、工夫次第では測定できるのだが、仮に、俗説通り、「知識・技能」しか測定し得ないとしても着目すべき事実がある。それは、「知識・技能」を問う問題の得点と、「思考力等」を問う問題の得点の間には、往々にして正の相関が見られることである。このことは、客観テストの結果が、「思考力等」を予測できることを物語っている。
一方、「主体性」といった情意領域(非認知領域)の評価は、一般に、筆記試験では難しく、行動観察、他者評定、自己報告が適切とされる。しかしながら、学習意欲や学習コンピテンスといった情意領域に関する質問紙の評定値と、客観テストの得点との間にも、正の相関が見られることが多い。このことは、客観テストの結果には、「主体性」が反映されることを物語っている。
かくして、客観テストである標準学力検査は、間接的ではあるが、一定程度、「思考力等」と「主体性」を捉えていると見ることもできる。文科省の答申等をみる限り、「学力の三要素」の要素間には関連性が想定されており、こうした見立ては、理念的に間違いではないだろう。個人の中で、「学力の三要素」は一体化しているのだ。
標準学力検査の長所の一つは、全国基準の偏差値によって集団及び個人の学力の経年変化を追えることである。先の見立てが支持されるならば、標準学力検査の結果は、「学力の三要素」の発達を映し出す情報としても活用できよう。